大阪地方裁判所 平成5年(ヲ)5792号 決定 1993年10月27日
申立人(債権者) 大阪総合信用株式会社
代表者代表取締役 八波暢生
代理人弁護士 勝部征夫
高橋司
桑森章
相手方(債務者兼所有者) 大江泰彦
相手方(債務者の占有補助者) 日青総合企画株式会社
代表者代表取締役 石田武史
相手方(債務者の占有補助者) 小西正行
主文
1 相手方大江泰彦は、別紙物件目録≪省略≫(4)記載の建物を収去して、同目録記載(2)の土地のうち別紙図面≪省略≫斜線部分の土地を、大阪地方裁判所平成四年(ヲ)第五三七一号売却のための保全処分申立事件の決定に基づき同目録記載(1)ないし(3)の土地を保管する大阪地方裁判所執行官に明け渡せ。
2 相手方日青総合企画株式会社及び同小西正行は、同建物から退去して、前記土地を同執行官に明け渡せ。
3 申立人のその余の申立を却下する。
理由
1 申立の要旨
(一) 申立の趣旨
(1) 相手方大江泰彦(以下単に「大江」という。)は、別紙物件目録記載(2)の土地のうち、別紙斜線図面の土地(以下「本件敷地部分」という)上に建築した同目録記載(4)の建物(以下「本件建物」という)を収去せよ。
(2) 大江(占有補助者である相手方日青総合企画株式会社及び同小西正行による占有を含む。)は、本決定送達後五日以内に本件敷地部分から退去せよ。
(3) 大江は、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録(1)ないし(3)記載の土地(以下「本件土地」という)について、建物その他一切の工作物を建築・設置し、または占有を移転し、もしくは占有名義を変更してはならない。
(4) 執行官は、買受人が代金を納付するまでの間、大江が前記第1項から第3項までの命令を受けていることを公示しなければならない。
(二) 申立の理由
(1) 根抵当権
申立人は本件土地について昭和六三年一〇月一三日受付で極度額二億円の根抵当権設定登記を受けたほか、他に二件の根抵当権を有する。
(2) 競売開始決定
大江は平成三年六月分以降の利息の支払を怠ったため、申立人は平成三年一二月二六日本件土地について競売申立(前記基本事件)をし、平成四年一月八日競売開始決定がなされ、同月一〇日差押登記がなされた。
(3) 第一次保全処分
ところが、差押後、更地であった本件土地のうち本件敷地部分上に本件建物が建築されたばかりか、残余の土地についてもブルドーザー・トラック等を使用して、大掛かりな整地工事・側溝掘削工事が開始されたため、申立人の申立(平成四年(ヲ)第五三〇九号)により、大江に対して、「本件土地につき整地工事及び側溝の穿掘工事を中止し、これを続行してはならない」旨の第一次保全処分が平成四年六月一八日発令された。
(4) 第二次保全処分
前記第一次保全処分の大江への送達後も工事は続行されたため、申立人の申立(平成四年(ヲ)第五三七一号)により、本件土地及び本件建物につき大江の占有を解いて執行官保管を命ずる第二次保全処分が平成四年六月二六日発令された。
しかしながら、右保全処分命令の執行は、本件土地のうち別紙物件目録(3)記載の部分(以下「土地3部分」という)については私道敷であるとして、また本件建物については大江の占有を認めるのに足りる徴表がないとして、本件敷地部分については、本件建物を使用するのに必要最小限の部分であるとして、それぞれ執行不能とされた。
(5) 本件執行妨害
① 本件建物は、執行官の現況調査報告書によれば、大江が自己の所有であることを認めていることからいって、大江の所有である。
本件建物は差押後急遽建てられたものであって、買受人に対抗し得る土地利用権原を有しないが、この建物が存在することによって土地利用が困難になり、しかも建物収去のためには引渡命令では足りないから、建物を存置すること自体によって買受希望者に買受の意欲をなくさせるものであって、しかも前記の建物建築の経過から見て執行妨害目的であることは明らかである。
② また、本件建物を相手方日青総合企画株式会社(以下「日青」という。)が使用占有しているが、日青の看板がかけられており、同社の本店所在地が他から移転されて本件建物となっているものの、何らの営業も行なわれておらず、日青は本店所在地をしばしば変更し、商号も変更するなどの経過をたどっていることも考慮すれば、実体がないものであって、大江の占有補助者にとどまるものと解される。
③ 更に、相手方小西正行(以下「小西」という)も、本件建物にしばしば立入り、同人所有の乗用車が本件土地のうち執行官保管に付されている部分に張られた杭の一部が無断で抜かれた部分に駐車しており、このことからみて同人も本件建物を使用していることが認められ、同人も大江の占有補助者であると解される。
2 当裁判所の判断
(一) 申立人の申立の理由のうち第二次保全処分までの経過については当裁判所に顕著である。
(二) 基本事件の現況調査報告書によれば、大江は、本件建物について自己が倉庫として建築中である旨述べ、また第一次・第二次保全処分において、大江が建築したもので大江の所有であると認定されていることについても特に不服申立をしていない。なお、第三者が第三者異議等の主張をした形跡もない。したがって、本件建物は大江所有であると認めることができる。
(三) 日青は、当裁判所の審尋に対して、本件建物は平成三年六月一九日に大江から賃借した土地に申立外坂井昭夫が建築し、差押以前から整地作業及び建築確認の手続に入り、本件土地についての差押登記以後に上記坂井が建築したものであり、日青は坂井から本件建物を本件土地とともに賃借したものである旨主張している。
しかし、申立人提出の≪証拠省略≫(前記第二次保全処分についての執行調書)によれば、日青及び坂井はいずれも本件土地のうち本件敷地部分及び土地3部分についての執行官保管の保全処分に対する不服申立を行なっておらず、前記主張は疑わしい。なお、本件建物は未登記であり、建築確認申請が坂井名義でなされたとは認めがたい。
そして、≪証拠省略≫によれば、本件建物について日青は本店を置いているものの、通常の営業は何ら行なっていないこと、本店が度々移転していることを考え合わせると、日青は大江と一体となって執行妨害を図るものと一応推認できる。
(四) 日青は≪証拠省略≫によっても本件建物を占有していることが認められるが、小西はこの時点では特に本件建物を占有しているという外形はなかったと解される。また、小西は当裁判所が行なった審尋に対しても何ら回答しない。したがって、同人については本件建物について特段の占有権原を有していないことが一応認められる。
けれども、≪証拠省略≫によれば、小西は何ら営業している形跡のない本件建物にしばしば現われ、しかも本件土地のうち執行官保管に付されている部分(杭が抜かれた部分)にしばしば車を停めるなどしていることが一応認められ、日青とともに大江と一体となって執行妨害をなすおそれが強いものと解される。
(五) そして本件敷地部分は本件土地のうち極く一部分ではあるが、本件土地のうち公道及びそれに接続する私道である土地3部分に接する間口部分の幅の約三分の一近くを占め、この部分に件外建物が存在し、しかも執行妨害を図る者が出入りするような状況では、通常の買受希望者は本件土地の買受を望まないことは明らかであり、本件建物の存続自体が著しい価格減少行為と認めることができる。
また、差押後買受人に対抗し得る利用権原を有しないのに建物を建てて保有することは通常の利用とは認めがたい。
(六) そうすると、本件建物の収去を求める申立は認容すべきであるが、前記第二次保全処分は、既に執行期間内に保管に着手していることからいって、本件土地全体について執行官保管を命ずる命令として効力をなお有すると考えられるから、収去後の土地の占有の引渡は本件土地を占有する執行官に対してなさせるべきであり、それで目的を果たし、また占有補助者と解される日青及び小西については建物収去の執行に必要な限度で退去すれば足りると解される。また、第二次保全処分による執行官保管の効果が継続するとすれば、それ以上の公示は必要がない。
(七) なお、日青及び小西はいずれも大江の占有補助者と解されるが、その関係は必ずしも明確ではなく、ある程度独立した形での権利主張がなされる可能性があるから、これを当事者として扱うのが望ましい。民事執行法制定の際の国会における政府案修正の経過に照らせば、債務者・所有者と無関係な第三者については、仮にそれが全くの不法占有者であっても民事執行法五五条の保全処分の相手方とはならないと解すべきであるが、本件のように債務者・所有者を相手方とする保全処分において、相手方の占有補助者もしくは相手方と一体となって執行妨害をなす者については、債務者と同視できるものとして、保全処分の相手方となすことが許されるものと解する。
(八) よって民事執行法五五条二項に基づき、申立人に、大江に対し金二〇〇万円、日青に対し金一〇〇万円、小西に対し金五〇万円の担保(いずれも株式会社大阪銀行本店営業部による平成五年一〇月二七日付支払保証委託契約)を立てさせた上、主文の通り決定する。
(裁判官 富川照雄)